非業の死を遂げた鈴木沙彩さんは、当時18歳。勉学に励む現役の高校生であると同時に、幼少期から映画や演劇に強い情熱を傾ける表現者でもありました。彼女の伯父は、ドラマ『北の国から』や『前略おふくろ様』など数々の名作を世に送り出した日本を代表する脚本家・倉本聰氏です。
著名な芸術家の一族という環境に甘んじることなく、彼女は自らの実力でオーディションを受け、演技の世界で頭角を現していました。倉本聰氏が脚本を手がけた特別企画ドラマへの出演歴をはじめ、日本映画界の気鋭監督の作品にも次々と起用されていました。
鈴木沙彩さんの主な出演作品には、国際映画祭でも高く評価された園子温監督の映画『冷たい熱帯魚』(2010年)や、現代の若者の貧困と孤立を描いた映画『東京難民』(2014年公開、遺作)などがあります。端役であっても現場で台本を熱心に読み込み、監督の意図を汲み取ろうと真摯に取り組む姿勢は、多くの映画関係者から「将来の日本映画界を背負って立つ本格派女優になる」と高く評価されていました。
周囲の友人や学校関係者が証言する素顔は、決して派手に振る舞うことなく、控えめで他者への気配りを忘れない聡明な人物でした。高校卒業後は大学への進学も決まり、学業と女優業の両立を目指して夢を膨らませていた矢先、理不尽極まりない暴力によってその未来は唐突に断ち切られてしまったのです。