時給の上昇が必ずしも労働者の総収入増につながっていないという皮肉な現象も起きている。長年議論の的となっている「103万円の壁」をはじめとする年収の壁問題だ。労働経済学の視点から見れば、時給が上がることで一定の税制控除や社会保険の扶養枠を超えてしまい、結果として手取りが減ることを恐れた働き手が労働時間を意図的に削る「働き控え」が発生している。
現場では、「時給が上がったため、年末にシフトに入れない」という本末転倒な事態が日常茶飯事となっている。店舗側は深刻な人手不足に喘ぎ、働き手はもっと働いて稼ぎたいのにブレーキを踏まざるを得ない。制度と実態のミスマッチが解消されない限り、時給アップの恩恵が手取りの増加として完全に結実しないジレンマが横たわっている。