望海風斗と『エリザベート』の歴史を語る上で欠かせないのが、2014年花組公演(明日海りおトップお披露目公演)におけるルイジ・ルキーニ役です。当時、花組の男役スターとして円熟味を増していた望海は、この大役を単なるテロリストではなく「冷徹な知性と破滅的な狂気を併せ持つ物語の支配者」として見事に立ち上げました。
特に第2幕冒頭の代名詞的ナンバー「キッチュ」では、劇場の隅々まで響き渡る芯の太いベルティング発声と、客席を瞬時に巻き込むアドリブ力で空間を掌握。当時の舞台評や劇評でも「狂言回しとしての物語推進力が群を抜いている」「狂気の笑みの奥に社会への鋭利な批評眼が宿っている」と極めて高い評価を集めました。
当時の特番インタビューや劇団誌の取材において、望海は「ルキーニは単に奇声を上げる狂人ではなく、時代の犠牲者であり、誰よりも冷酷に真実を見つめている観察者」と役へのアプローチを語っていました。この公演を最後に雪組へと組替えとなった背景もあり、花組時代の集大成として放たれた凄まじいエネルギーは、今なお宝塚版『エリザベート』の歴史における金字塔として語り継がれています。