2015年、元少年Aが著した手記『絶歌』の出版は、日本の出版業界に未曾有の衝撃と波紋を広げた。元加害者が自らの言葉で惨劇の背景や精神構造を綴った実録ノンフィクションとしての側面を持つ一方、被害者遺族への事前説明や了解がないまま刊行されたプロセスに対して、強い社会的批判が巻き起こった。
文藝春秋をはじめとする各メディアや文芸評論家の間でも、加害者手記の出版価値と社会的倫理をめぐり激論が交わされた。表現の自由や犯罪心理の解明という学術的・記録的視点を重視する立場がある一方で、書籍の売上が加害者に印税として還流することへの道義的反発は根強く、一部の書店では店頭陳列を拒否する動きまで広まった。実録ノンフィクションというジャンルが背負う表現の重みと、被害者感情への配慮という倫理的ジレンマが、極めて先鋭的な形で浮き彫りとなった出来事であった。