移動体験を単なる移動で終わらせないのが、JR九州が誇る特急車両の個性だ。多くの車両デザインを手掛けた水戸岡鋭治の美学は、日豊本線を疾走する特急にちりん(787系など)の車内にも色濃く宿る。ダークグレーの重厚な車体、木材や質感豊かなファブリックを大胆にあしらったシート、間接照明が織りなす落ち着いた客室空間は、単なる移動手段を上質なツーリズムへと塗り替える。
幸崎駅を過ぎると車窓の表情は一変する。臼杵、津久見へと南下するにつれ、豊後水道の深い青とリアス海岸の険しい岩肌が窓いっぱいに広がる。山林のトンネルを抜けた瞬間に視界が開けるコントラストは、この鉄路ならではのダイナミズムだ。