大阪で「おでん」といえば、古くから「関東煮(かんとだき)」の名で親しまれてきました。その総本山とも称される玉造の銘店・きくやの店先に立つと、なぜここが単なる飲食店を超えた社会現象のような賑わいを見せているのか、その理由が肌感覚で理解できます。
最大の要因は、店内に一歩足を踏み入れた瞬間に視界へ飛び込んでくる巨大なおでん鍋と、創業以来継ぎ足されながら磨き上げられてきた「究極の出汁」にあります。一般的な関西風の澄んだ昆布出汁とは一線を画し、大量の牛すじからあふれ出た濃厚な肉の旨味、鰹節や昆布の乾物系出汁、そして各種の具材から染み出したエキスが渾然一体となった琥珀色のスープは、力強いコクを持ちながらも後味にしつこさが一切残りません。この出汁の存在こそが、訪れる者の胃袋を掴んで離さない原点です。
さらに見逃せないのが、店内の活気と職人芸のような手際の良さです。コの字型のカウンター越しに、大鍋を囲む店員が客の注文を淀みなくさばき、湯気を立ち上らせながら次々と皿へ盛り付けていく光景は、昭和の大衆演劇のような心地よいリズムを生み出しています。ただ空腹を満たすためではなく、あの活気ある空間に身を浸し、出汁の香りに包まれながら杯を傾ける体験そのものに、人々は何時間並んででも味わいたい価値を見出しています。