この「視線の恐怖」という根源的なテーマを、映画という圧倒的な映像表現へと昇華させた表現者が世界的な巨匠・黒沢清だ。1990年代に世界中を震撼させた伝説的なサイコスリラーの金字塔、映画『CURE』において、彼は「目に見えない狂気」を静寂と日常のズレによって描き出し、世界中の映画ファンを恐怖のどん底に突き落とした。
黒沢監督の演出における最大の武器は、画面に漂う不穏な空気感と、登場人物たちの捉えどころのない目線だ。見る者と見られる者の立場が滑らかに入れ替わり、逃げ場のない心理的圧迫感がじわじわと観客を侵食していく。彼が描くサスペンス映画の真髄は、直接的な暴力描写ではなく、ただ人が「たたずみ、見つめる」という行為そのものを恐怖に変えてしまう点にある。