「鍋やフライで火を通したのに当たった」という体験談を耳にすることがあります。この現象には明確な科学的理由が存在します。もっとも多い原因は、中心部までの加熱不足です。ノロウイルスは熱に強く、貝の表面に熱が通っていても、内部が85℃〜90℃以上で90秒以上加熱されていなければ不活化しません。特に大粒の牡蠣や殻付き牡蠣は中心まで熱が伝わりにくく、加熱調理したつもりでもウイルスが生き残るケースが頻発します。
さらに見落とされがちなのが、調理器具を介した「二次汚染」です。生の牡蠣を掴んだトングや箸でそのまま仕上がった料理を取り分けたり、牡蠣を洗った際の水滴がまな板や付近の食器に飛び散ったりすることで、ウイルスを口に運んでしまうパターンです。
また、スーパー等で見かける生食用と加熱用の違いについて、「生食用の方が鮮度が良く、鮮度が落ちたものが加熱用」という認識は完全な誤解です。両者の違いは鮮度ではなく、採取された指定海域と浄化滅菌処理の有無にあります。
保健所が指定する清浄海域で獲れ、紫外線殺菌水などで24時間以上浄化されたものだけが「生食用」として出荷されます。一方、栄養分が豊富でプランクトンが多い内湾などで育った牡蠣は、ウイルスや菌を取り込んでいる可能性が高いため「必ず中心まで加熱すること」を前提とした「加熱用」として出荷されます。加熱用の牡蠣を生で食べる行為は、極めて危険な行為です。