なぜこの演目は、目の肥えた時代劇ファンをもこれほどまでに惹きつけるのか。その答えは、歌舞伎舞踊が内包する圧倒的なストーリーテリングとリズム感にある。竹本の語りと三味線の撥音が紡ぎ出すビートは、現代のロックやジャズにも通じる強烈なドライブ感を持つ。馬の首を模した小道具を操りながら、躍動感あふれるステップを踏む姿は、民衆のたくましいエネルギーそのものだ。
江戸の市井に生きた人々の息遣い、四季の美意識、そして憂き世を笑い飛ばす洒落っ気。時代劇の粋が濃縮されたような濃密な空間構成は、理屈を超えて観る者の本能を揺さぶる。