クーデター直後、匈奴の内紛を聞きつけた東方の強国・東胡(とうこ)は、冒頓の器量を試すために次々と理不尽な要求を突きつけてきた。「千里を走る名馬を譲れ」「単于の愛妾を差し出せ」という屈辱的な要求に対し、部下たちが激怒して開戦を主張する中、冒頓は「隣国と争うのに、馬1頭や女1人を惜しむ必要があるだろうか」とあっさり譲り渡した。これにより東胡側は「冒頓は恐れるに足らない臆病者だ」と油断し、防備を完全に怠るようになる。
しかし、東胡が「両国の間にある無人の荒野(国境地帯の緩衝地)を我が領土としたい」と要求してきた瞬間、冒頓の態度は豹変する。「馬や女は私物だが、土地は国家の根本である。一寸たりとも他国に与えることは許されない」と一喝し、割譲に賛成した部下を処刑した上で、電光石火の奇襲攻撃を仕掛けた。油断しきっていた東胡は壊滅し、国を滅ぼされた。
勢いに乗った冒頓は、かつて自分を謀殺しようとした西方の月氏を征服して放逐。さらに北方のバイカル湖周辺の諸民族を平定し、南方のオルドス地方を奪還した。こうして東西数千キロに及ぶ広大な遊牧帝国が築かれ、冒頓単于の功績と領土拡大はユーラシア大陸の勢力図を根本から塗り替えることとなった。