『火垂るの墓』が世界中のアニメーション史において突出したリアリズムを誇る最大の要因の一つが、節子を演じた白石綾乃(しらいし あやの)の圧巻の演技です。当時わずか5歳(収録時)だった彼女の芝居は、作られた子役の演技ではなく、「本物の幼児がそこに生きている」かのような生々しい息遣いと感情の起伏をフィルムに刻み込みました。
高畑勲監督は、アニメーション制作における通常の「アフレコ(映像に合わせて声を当てる手法)」ではなく、声を先に収録してその演技の尺やニュアンスに合わせて作画を行う「プレスコ(プレスコアリング)」を徹底的に採用しました。関西弁の自然なイントネーションと、幼児特有の言い淀みや息継ぎを完全に生かすため、関西出身の白石綾乃が抜擢されたのです。スタジオでは機嫌を損ねて泣き出すハプニングも含め、彼女の自然体のリアクションを丹念に拾い上げて節子のキャラクターが構築されました。
映画公開後、その天才的な表現力から将来を嘱望された白石綾乃ですが、その後は目立った芸能活動を継続することなく、芸能界を完全に引退しています。現在の消息については一般人として平穏な生活を送っていると伝えられており、メディアへの露出やインタビューに応じることはありません。商業主義に染まらない一瞬の奇跡のような名演を残したこと自体が、今もなお映画ファンの間で語り草となっています。