なぜ、同じ画面を見ているにもかかわらず、これほど極端な知覚の乖離が生じるのでしょうか。眼科医療関係者や認知心理学の研究者による検証によって、その決定的な理由が明らかになっています。核心にあるのは、脳が備えている「色恒常性(Color Constancy)」と呼ばれる適応機能です。
私たちが日常で目にする光は、時間帯や場所によって刻一刻と変化しています。夕暮れの赤い光の下でも、青白い蛍光灯の下でも、白い紙を「白」と認識できるのは、脳が光源の色合いを無意識に差し引いて物体の「本来の色」を割り出しているからです。何色に見えるシリーズの画像は、この自動補正エンジンに意図せぬバグを引き起こす構造を持っています。
ドレスの画像を例に取ると、脳が画像をどう解釈するかで知覚が真っ二つに分かれます。
「白と金」に見える人の脳は、撮影場所が「青みがかった影(自然光の陰)」に入っていると無意識に推測します。青い光線が当たっていると仮定するため、脳は画像から青色成分を差し引きます。その結果、白地に金のレースが施されたドレスだと知覚するのです。海外の大学研究チームが実施した大規模調査では、朝型生活を送り、日中に太陽光(青空光)を浴びる機会が多い人ほど、この「白金」として知覚しやすい傾向が示されています。
一方、「青と黒」に見える人の脳は、被写体が「黄みがかった人工照明」の下にあると推測します。黄色や金色の光が強く当たっていると判断するため、脳はその黄色成分を差し引いて補正します。結果として、元の生地は青く、レース部分は黒いと認識されるわけです。夜型の生活者や、人工的な灯火の下で過ごす時間が長い人は「青黒」に見えやすいという研究結果も報告されています。
さらに、眼球内部の解剖学的構造も影響しています。網膜の中心窩には、光の波長を識別する3種類の錐体細胞(L錐体:赤、M錐体:緑、S錐体:青)が存在しますが、この受容体の感度や細胞数の分布比率には生まれつきわずかな個人差が存在します。光の強弱を感知する桿体細胞と錐体細胞の情報伝達バランス、そして過去の視覚体験の蓄積が合わさり、各人が見る「現実」を形作っているのです。