著者の最高傑作と評される『正欲』やデビュー作『桐島、部活やめるってよ』を読んだ人は、彼の執筆するエッセイを開いた瞬間、猛烈な寒暖差にめまいを覚えるはずだ。緻密に計算されたプロットと社会への鋭利な問題提起で知られる作家が、文章の裏で失便の危機に怯え、ダンスサークルの愚痴をぶちまけているのだから。
だが、これこそが朝井リョウという異才の本質である。彼が手がけるユーモアエッセイの核にあるのは、徹底した「自意識の客観視」だ。自分がどれほど格好悪いか、どれほどみっともない感情を抱いているか。本来なら隠したい滑稽さを、まるで他人の悲劇を観察するかのような冷静さで描写していく。軽妙な語り口でありながら、言葉の端々には現代日本文学を牽引する小説家としての卓越した文章表現が惜しげもなく注入されている。