権力の座にあって体制の限界を悟った白人政権の大統領、F・W・デクラークの存在なしに、この平和的移行は語れない。彼は過激化する国際的孤立と国内の混乱を前に、自ら政権の終焉を受け入れる政治的賭けに出た。非常事態宣言の解除と違法とされていた政治団体の解禁を発表した決断は、世界に衝撃を与えた。
長年地下組織として弾圧を受けてきたアフリカ民族会議(ANC)もまた、武装闘争の方針を転換し、テーブルにつく道を選んだ。数々の流血事件や内部の強硬派による反対を押し切り、政権とANCは血のにじむような条件交渉を繰り返す。互いの不信感を完全に拭い去れないまま進められた妥協のプロセスこそが、新憲法制定への強固な基盤となった。