「たいと」が日本の近代奇字であるのに対し、中国の古代典籍に確固たる意味とともに記されている正統な王者が、龍を4つ並べた64画の「𪚥(てつ、てち)」です。6世紀の『玉篇』や清代の『康熙字典』に明記されており、その意味は驚くべきことに「多言(言葉数が多い、おしゃべり)」。龍は古来、神聖で力強い存在であると同時に、雲を呼び風雨を巻き起こす騒々しい存在でもありました。神霊たる龍が4頭も集まれば騒がしくて仕方がないという、古代中国のユーモアと観察眼が結実した字形と言えます。
一方、21世紀のデジタル空間と外食産業を席巻したのが、中国陝西省発祥の平打ち麺を指す57画の「ビャン(𰻞)」です。あまりの複雑さに現地では次のような覚え歌(順口溜)が口承されてきました。
「一点冲上天、黄河両道弯、八字大張口、言字往裏走……(一点天に昇り、黄河は二筋に曲がり、八の字が大きく口を開け、言の字が中に入る……)」
この文字は、かつて貧しい書生が麺代の代わりに店主のために考案したという民俗伝説が残る「商業プロモーション文字」です。長らく手書き専用の民間俗字(方言字)にとどまっていましたが、2026年にUnicode 13.0の国際規格に正式採用。現代のスマートフォンやPCでもフォント環境さえ整えばテキストデータとして表示できるようになり、多画数漢字がデジタル社会で市民権を獲得した歴史的実例となりました。