理由は極めてシンプルだ。日本の司法制度と報道機関が「推定無罪」と「客観的事実の担保」を徹底しているからに他ならない。事件現場にバールらしき工具が残されていたとしても、あるいは扉にバールでこじ開けたような傷跡があったとしても、それが本当に「バール」によって付けられたものなのかは、科学捜査研究所(科警研)などの鑑定を待たなければ確定しない。もし仮に、実際には特注の鉄パイプや頑丈なマイナスドライバーだった場合、確定前に「バール」と報じてしまうことは誤報にあたる。
また、容疑者が逮捕される前の段階で凶器を特定しすぎることは、捜査上の秘密(秘密の暴露)を損なうリスクもある。犯人しか知り得ない情報をメディアが先に漏洩させてしまうのを防ぐため、警察の広報官は意図的に「バールのようなもの」という曖昧な表現でレクチャーを行う。メディア側もその発表をそのままなぞるため、結果としてお馴染みのフレーズが毎日のようにニュースでお茶の間に流れることになるのだ。