渡瀬恒彦さんの実質的な遺作となったのが、2017年3月にテレビ朝日系で放送された二夜連続ドラマスペシャル『そして誰もいなくなった』(アガサ・クリスティ原作)です。撮影は亡くなる直前の2017年1月から2月にかけて行われました。
当時の渡瀬さんはすでに自力での長時間の歩行や呼吸が困難な状態で、ロケ現場には酸素吸入器が持ち込まれていました。カットがかかるたびに酸素マスクを口に当てて呼吸を整えながらも、カメラが回れば往年の鋭い眼光と重厚な台詞回しで見事に元裁判官・磐村辰秀役を演じきりました。その鬼気迫る演技は、画面越しにも伝わるすさまじい執念に満ちていました。
一方、長年主演を務めていた看板ドラマ『警視庁捜査一課9係 season12』の撮影を目前に控えての無念の逝去でもありました。主演・加納倫太郎役の不在という緊急事態に対し、後輩の井ノ原快彦さんをはじめとするキャスト陣は「渡瀬さんの思いを繋ぐ」と結束。のちの『特捜9』へとシリーズが継承されていく原動力となりました。