越路吹雪の真骨頂は、観客を一瞬で物語の世界へ引き込むライブパフォーマンスにあった。
洋楽ポップスの名曲を日本語でカバーした「ラストダンスは私に」は、その洒脱なリズムと大人の哀愁が漂う歌唱で大ヒットを記録。従来の歌謡曲にはなかった都会的なセンスと、演劇的なストーリーテリングが見事に融合した瞬間だった。
しかし、スポットライトの裏側で彼女は常に極度の舞台恐怖症と戦っていた。本番直前まで激しい不安に苛まれ、開演前にはグラス一杯のウイスキーを口にして腹をくくるのが常だったという。そのあまりに繊細な素顔と、舞台上で放たれる圧倒的な存在感とのギャップこそが、彼女の歌声に深みと凄みを与えていたのだ。ミュージカルや大劇場でのリサイタルを次々と成功させ、日本のエンターテインメント界に「大人のためのショービジネス」を確立させた功績は計り知れない。