移籍劇の裏には、イチロー自身が抱いていた強い危機感と美学が存在していた。若返りを図るシアトル・マリナーズの未来を思い、自らトレードを打診するという前代未聞のプロセスを踏んだことは、当時のメジャーリーグベースボール界に大きな衝撃を与えた。
常勝を義務付けられたニューヨーク・ヤンキースへの移籍は、彼にとって「極限の緊張感」を取り戻すための必然的な選択だった。長年親しんだ背番号51は、ヤンキースの英雄バーニー・ウィリアムスへの敬意を表して自ら固辞し、新たに背番号31を選択。この謙虚かつ誇り高き振る舞いが、気むずかしいニューヨークのメディアや熱狂的なニューヨーカーの心を一瞬で掴んだ。