喪黒福造の正体については、長年にわたり多角的な考察が交わされてきました。作中でも明確な出自は明かされておらず、その超常的な能力と不気味な存在感からいくつかの有力な説が浮上しています。
代表的な仮説を比較・整理したものが以下の視点です。
① 西洋的な悪魔(メフィストフェレス)説
ゲーテの『ファウスト』に登場する悪魔メフィストフェレスのように、「望みを叶える代わりに最終的に破滅(魂の収穫)をもたらす」という契約構造が完全に一致します。喪黒が一切の代金を受け取らない点も、魂を担保にした悪魔の契約そのものです。
② 死神・妖怪説
神出鬼没で壁をすり抜け、影のようにターゲットの背後に現れる描写から、人間の精神的な死を司る死神や、怪異を引き起こす妖怪の一種とする見方です。藤子不二雄Ⓐ作品特有の怪奇趣味が色濃く反映された存在といえます。
③ 仏教的な「業(カルマ)の執行者・憤怒尊」説
原作者の藤子不二雄Ⓐ(本名・安孫子素雄)の実家が富山県氷見市の名刹・光禅寺(曹洞宗)であった背景は無視できません。仏教には、悪人を罰して教化する不動明王のような忿怒(ふんぬ)の相を持つ存在がいます。喪黒は悪魔というよりも、「人間の犯した業に対する因果応報を即座に下す仏教的トリックスター」と解釈するのが最も腑に落ちます。
ちなみに、スピンオフ作品には喪黒福造の弟である「喪黒福次郎」が登場します。福次郎は兄とは正反対に、人々の心のスキマを純粋な善意で埋めて真の幸福へと導くセールスマンです。この対比からも、福造は「人間の悪業と破滅」をあえて司る役目を担っていることが裏付けられます。