西園寺羽京というキャラクターの本質を語る上で欠かせないのが、獅子王司率いる司帝国からの裏切りの経緯です。司帝国における羽京は、司、氷月に次ぐ実質的なナンバー3として警戒監視を任されていました。戦闘力と索敵能力を高く評価されていた彼が、なぜ千空側へと寝返ったのか。その動機は極めて明快であり、同時に痛烈な人間愛に根ざしています。
司が掲げた「既得権益を持つ純粋でない大人を間引く(石像を破壊する)」という選別思想に対し、自衛官として国民の生命を守る教育を受けてきた羽京は、内心で深い絶望と激しい嫌悪を抱いていました。しかし、武力で圧倒的な司と冷酷な氷月を前に単独で反旗を翻すことは無謀であり、機をうかがう日々を余儀なくされていたのです。
決定的な転機となったのが、敵地へ潜入したクロムとの遭遇でした。羽京は自らの聴力でクロムの存在を捕捉しながらも、あえて即座に始末せず、司帝国からの脱走を黙認。さらに、ケータイ(通信機)を手に入れた千空との直接交渉に踏み切ります。その際に提示した条件こそが、羽京の人間性を象徴する伝説の言葉でした。
「誰も死なない、その約束を守ってくれるなら」
千空の「最初から全員助ける気だ」という覚悟を聞き届けた羽京は、リスクを承知で科学王国との共闘を決断。自らを「僕は嘘つきだからね」と自嘲しながらも、奇跡の洞窟争奪戦において無血開城を達成するための決定的な架け橋となりました。己の保身ではなく、ただ「人の命が失われない未来」のために危険な綱渡りを演じきったその生き様は、読者の心を強く揺さぶりました。