では、なぜこれほど多くの人が「うる覚え」と書くのか。日本語学の視点からは、いくつかの要因が指摘されている。
第一に、「うろ」という音韻そのものが日本語話者にとって不安定である点だ。日本語の「ろ」は、ラ行の音の中でも特に曖昧な響きを持ち、話し言葉では「うる」に転訛しやすい。たとえば「うろうろする」が「うるうるする」に聞こえたり、「うろこ」が「うるこ」と発音されたりする現象と同根である。
第二に、「うる覚え」の方が語感として「覚えている」という意味に合致すると感じる人が多い点だ。「うろ」には「空洞」というネガティブな印象があるが、「うる」には「うるさい」「うるうる」など、何かが満ちているニュアンスがある。そのため、「完全ではないが何かが残っている記憶」という感覚に「うる」の方がしっくりくるという心理が働く。
文化庁が2026年に公表した「国語に関する世論調査」の関連データによると、「うる覚え」を使うと回答した人は全体の約18%に達し、特に10代から20代では約30%に上る。一方で「うろ覚え」が正しいことを知っている人は約75%おり、世代間の認知ギャップが浮き彫りになっている。