この事案が残した爪痕は、あまりにも重く悲劇的だった。2014年8月、渦中にあった笹井芳樹氏が自ら命を絶つという事態は、科学界全体に計り知れないショックを与えた。日本のバイオロジーを牽引していた才能の喪失は、単なる組織の不祥事を超えた暗い影を投げかけた。
背景にあったのは、過酷な資金獲得競争と、成果を即座に求める社会的なプレッシャーである。多能性幹細胞をはじめとする先進領域では、研究倫理を二の次にした過熱したレースが展開されがちだった。この悲劇を重く受け止めた日本の学術界は、若手育成の手法やピアレビューのあり方、さらには研究者に対する倫理教育を根底から見直す作業を余儀なくされた。