理研を退職し、科学の第一線から姿を消した彼女が、沈黙を破って自らの言葉を語ったのが2016年刊行の手記『あの日』であった。出版社大手の文藝春秋から刊行されたこの著作は、発売直後からベストセラーとなり、社会的な大きな反響を呼んだ。
同書において、彼女は研究室での実験の経緯、論文作成時の不備に対する反省、そして騒動の渦中で体験した圧力や組織内での孤独について詳述した。世間の「加害者」というイメージに対し、当事者の側から見た「もう一つの真実」を提示しようとした挑戦であった。この手記の発表により、一連の事件に対する世間の見方は単なる「研究不正事件」にとどまらず、巨大組織と若手研究者の関係性、あるいは日本の研究現場が抱える構造的課題へと多角化していくことになる。