鮎料理といえば伝統的に「蓼酢(たです)」が添えられますが、天ぷらとして味わう場合の調味料選びにも深い妙味が存在します。同じく単行本第4巻に収録されている「天ぷらの極意」でも語られている通り、天ぷらの本質は「脱水と濃縮、そして衣の中での蒸し焼き」にあります。
塩焼きには蓼の爽やかな辛味と酸味が脂を洗い流す蓼酢が抜群の相性を見せますが、天ぷらの場合はまず上質な粗塩で味わうのが定石とされます。高温の油で凝縮された鮎の身の甘味と、ワタの上品な苦味が、微量のミネラル塩によって輪郭を際立たせるためです。
一方、やや大きめの鮎や脂の乗った初秋の「落ち鮎」を天ぷらにする場合は、蓼酢の酸味をほんの少し潜らせることで、油の重さを打ち消し、清涼感あふれる後味を堪能できます。素材のコンディションに応じた食べ方の選定こそが、美味しんぼが説く料理の真髄です。