うろこの家の中庭に入ると、堂々たる存在感を放つブロンズ像の猪が迎えてくれます。この像は、ギリシャ神話に登場する「カリドンの猪」をモチーフにした彫刻で、愛称「ポルチェリーノ(子豚・猪)」として親しまれています。イタリア・フィレンツェのメルカート・ヌオーヴォ(新市場)にある名高いブロンズ像の精巧な複製(レプリカ)であり、イタリア・ルネサンス彫刻の巨匠ピエトロ・タッカの傑作を受け継いだものです。
来訪者の視線を奪うのは、全身の渋いブロンズ色とは対照的に、ピカピカの金色に磨き上げられた鼻頭です。いつしか「猪の鼻を撫でると幸運が舞い込む」「金運や恋愛運が向上する」という都市伝説が口コミやSNSで広まり、現在では神戸を代表する屈指のパワースポットとして定着しました。
心理学・民俗学的な観点から分析すると、この現象は「身体的接触を伴う幸運祈願行動(コンタクト・リチュアル)」の一種と解釈できます。旅先という非日常の空間において、象徴的な造形物に直接触れる行為がポジティブな自己暗示を生み出し、記憶に残る強い体験価値を形成しているのです。長年にわたり無数の観光客が願いを込めて触れ続けた結果生じた鼻の輝きそのものが、人々の願いの集積としてこの場のオーラを一段と高めています。