「山下達郎のライブを観て最も衝撃を受けるのは、70代になっても20代当時の原曲キーのまま、ノーマイクでホール最後列まで突き抜ける驚異的な声量だ」――これは音楽評論家や現場を訪れた観客が一様に口を揃える事実です。一般的に人間の声帯は加齢とともに筋肉が萎縮し、高音域の喪失や声のカスレが生じるのが生理学的な宿命とされています。なぜ彼はその常識を完全に覆し続けているのでしょうか。
取材関係者の証言や本人がラジオで語ってきた断片を統合すると、その背景には常軌を逸したレベルの自己規律と発声管理が存在します。まず挙げられるのが、喉に対する徹底した防衛策です。タバコを一切嗜まないことはもちろん、乾燥を極度に嫌い、移動中や宿泊先の加湿・保温には細心の注意が払われています。酒類に関しても、ツアー期間中は喉の粘膜を充血させないために厳しく制限するなど、アスリートさながらの生活リズムを構築しているのです。
さらに重要なのが、「声帯を疲弊させない独自の筋力コントロール」です。山下達郎は若い頃から一人多重録音によるア・カペラをライフワークとしており、精密機械のようにピッチ(音程)と倍音をコントロールする訓練を何十年も毎日重ねてきました。無理に張り上げるのではなく、頭蓋骨や胸腔に効率よく響かせるベルティングとミックスボイスの共鳴技術が、加齢による筋力低下を完全に補強しています。「歌うことこそが最良の発声訓練である」という信念のもと、長時間のステージを定期的にこなすこと自体が、喉の若さを維持する最大の特効薬として機能しているといえます。