物語の語り手である執事スティーブンスの存在を抜きにして、このドラマの深層は語れない。映画版で名優アンソニー・ホプキンスが完璧に体現したスティーブンスは、主人の政治的選択に一切の疑問を持たず、プロフェッショナルとしての職務を完遂することだけに全人生を捧げた。
主人の過ちを目撃しながらも無言で給仕を続け、己の感情や個人的な幸福すら殺し続けたスティーブンスの生き様。それは組織や権力に絶対的な信頼を寄せる人間の悲哀を如実に示している。主人への忠誠が、結果として自分自身の人生の空虚さへと結びついていくプロセスは、観る者の胸を強く締め付ける。