霞ヶ関駅を語る上で、決して避けて通れない歴史の暗部がある。1995年3月に発生した地下鉄サリン事件だ。日本の治安神話を揺るがしたこの無差別テロ事件において、無数の被害者と駅員たちが被害に遭った凄惨な現場こそが、まさにこの駅のホームであった。
作家の村上春樹は、関係者への綿密なインタビューを重ねてノンフィクション傑作『アンダーグラウンド』を書き上げた。作品の中で描かれたのは、事件の衝撃だけではない。過酷な犠牲を払いながらも、誇りと責任感を持って現場を踏みとどまった駅員たちの姿、そして日常を突然奪われた被害者たちの静かな叫びだ。平穏に見える改札口の踏みしめる一歩一歩の下には、こうした消し去ることのできない歴史の重みが今も深く刻まれている。