高熱時の異常行動といえば、世間を大きく騒がせてきたのがインフルエンザ異常行動との関係です。過去、タミフルなどの抗インフルエンザウイルス薬を服用した未成年者がマンションから転落死する事故が相次ぎ、日本中が震撼しました。しかし、その後の厚生労働省による大規模な疫学調査と研究により、事態の真相はより多角的な視点で解明されています。
厚生労働省の調査報告によると、突然走り出す、ベランダから飛び降りようとする、窓を突き破ろうとするといった重大な異常行動は、「抗インフルエンザ薬を服用していない未服用の患者」においても同等の割合で発生していることが明確に実証されています。つまり、異常行動の主因は薬の副作用だけではなく、インフルエンザウイルスそのものが引き起こす急激な高熱と、それに伴う熱せん妄・急性脳症病態が深く関与していると結論づけられています。
したがって、特定の治療薬を避ければ安全というわけではありません。インフルエンザと診断された、あるいは発熱後2日間は、治療薬の種類を問わず以下の物理的防犯対策を講じることが最優先義務となります。
- 高層階住宅における窓・ベランダの完全施錠:窓には補助錠を取り付け、子どもの手が届かない位置で二重ロックを行う。ベランダへの出入り口に家具を置いて塞ぐ。
- 1階での就寝:一戸建て住宅の場合、転落事故を防ぐために発熱後最低2日間は2階の寝室を使わず、1階の部屋で家族全員が川の字になって寝る。
- 玄関ドアのチェーン施錠:外へ走り去る事態を防ぐため、玄関の内鍵だけでなくドアチェーンやU字ロックを確実に掛ける。
さらに見過ごせないのが、解熱剤使用時の注意点とリスクです。熱で苦しむ我が子を見て、一刻も早く熱を下げようと家庭にある解熱剤を安易に飲ませる行為には致命的な罠が存在します。小児の発熱に対して絶対に使用してはならないのが、ロキソプロフェン(ロキソニン等)、ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン等)、アスピリンといった「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」です。これらをインフルエンザ発症時に投与すると、ライ症候群やインフルエンザ脳症の劇症化を招き、致死率が跳ね上がることが確立されています。
安全に使用できる解熱剤は、アセトアミノフェン(小児用カロナールやアンヒバ坐剤など)に限定されます。ただし、アセトアミノフェンであっても過度な投与は禁物です。解熱剤は病気そのものを治す薬ではなく、一時的に苦痛を和らげて水分補給や睡眠を助ける対症療法に過ぎません。体温の乱高下自体が脳への刺激となりせん妄を誘発する引き金にもなり得るため、用法・用量と適切な投与間隔(通常4〜6時間以上)を厳格に順守してください。