楽焼が他のあらゆる陶磁器と決定的に異なる最大の要素は、その徹底した造形プロセスと構造にあります。
一般的な陶器は回転する「ろくろ」を用いて左右対称の均整の取れた形に仕上げますが、楽焼では「手づくね(手捏ね)」と呼ばれる手法を頑なに守り続けています。陶工は指先の感覚と手のひらの圧力だけで粘土を丸め、中央を押し広げて茶碗の原型を作ります。その後、乾燥させながら「内削り」「外削り」と呼ばれるヘラ削りを施し、ミリ単位で厚みや重心を調整していきます。
この手づくね製法によって生まれる器は、あえて左右非対称であり、わずかな歪みや掌(てのひら)へのフィット感を宿します。手にしたとき、まるで最初から手のひらに収まるために生まれてきたかのような心地よい吸着感と重厚感をもたらすのは、この職人の手仕事によるものです。
さらに、一般の陶器との物性的な違いも見逃せません。楽焼に用いられる胎土は粒子が粗く、内部に微細な空気の層を多く含む「多孔質(ポーラス)」な構造を持っています。この空気層が断熱材の役割を果たすため、熱い抹茶を注いでも外側に熱が伝わりにくく、両手でしっかりと茶碗を包み込むことができます。まさに飲む人の心地よさを最優先に考え抜かれた、機能美の結晶です。