作る料理の種類に合わせてカットを変える視点も欠かせない。例えば、春の定番である若竹煮では、新わかめの柔らかな質感と対比させるため、ゴロッとした存在感のある乱切りや大きめのくし形切りが選ばれる。材料を回しながら斜めに包丁を入れる乱切りは断面の面積が広くなるため、すっきりとした淡口の出汁でも表面全体に味がしっかりと絡む。
対照的に、削り節の旨味と濃いめの甘辛タレをしっかり纏わせるたけのこの土佐煮には、やや厚めのいちょう切りや一口大の回し切りが好相性だ。表面の凹凸に鰹節が引っかかりやすくなり、煮汁の保持力が一段と高まる。仕上がりの料理像から逆算して包丁の形を選ぶ姿勢こそ、本物の日本料理の知恵と言えるだろう。