多くの読者が最も不条理に感じるのが、「自分の生まれ持った本名である能年玲奈が、なぜ独立後に使えなくなったのか」という疑問です。この「本名が使えない理由」の根底には、芸能界で長年まかり通ってきた一方的な契約約款の存在がありました。
当時、レプロ側は「契約終了後も『能年玲奈』を芸名(活動名)として使用する場合、事務所の事前承諾が必要である」という契約条項の効力を主張。もし承諾なく活動を継続した場合、法的措置を講じる可能性を示唆する通知書面が送付されたと報じられました。法的には個人の「氏名権」が存在するものの、芸能ビジネスにおいては「能年玲奈」という名前そのものが巨額の投資によって構築された「パブリシティ権(経済的価値)」を帯びているため、契約紛争中のタレントが訴訟リスクを回避するためには、本名を捨てて全く新しい名前を名乗る以外の現実的選択肢が残されていなかったのです。
この一件は単なる一女優のトラブルに留まりませんでした。2019年、公正取引委員会は芸能界における不透明な契約慣行や移籍妨害に対し、独占禁止法(優越的地位の濫用など)を適用する方針を明確化しました。のんの勇気ある独立劇と本名剥奪の悲劇は、日本のエンターテインメント業界が近代的な契約社会へと脱皮するための決定的なマイルストーンとなったのです。