『もののけ姫』に登場するタタラ場は、単なる製鉄工場ではありません。指導者であるエボシ御前が率いる、極めて革新的なアサイラム(避難所)として機能しています。このタタラ場で巨大な鞴(ふいご)を踏む女性たちの背景には、宮崎駿監督が意図した重厚な「元遊女の解放」という裏設定が明確に存在します。
公式設定資料集『THE ART OF THE PRINCESS MONONOKE』や当時の絵コンテに記された解説によると、エボシ御前は各地の売春宿(遊郭)に売られていた女性たちを高額な金で買い戻し、自らの拠点であるタタラ場へと連れてきました。男性優位だった中世社会において、女性が踏むにはあまりにも過酷な労働である製鉄作業を彼女たちに任せた理由は、「男に媚びず、自らの労働で飯を食う誇りと自由」を与えるためでした。
劇中で描かれる彼女たちの姿を観察すると、以下の特徴が際立っています。
- あけすけな会話と大胆な所作:男たちに対して一歩も引かず、下ネタや軽口を飛ばしながら笑い飛ばす逞しさ。
- 機能的で露出の多い着物:灼熱の熱気の中で作業するため、袖をまくり、ふくらはぎを大胆に露出した労働着を着用。
- エボシへの絶対的な忠誠心:「男たちには見せられない」と語り、エボシのために命を賭して石火矢を撃ち鳴らす自立心。
エボシ自身もまた、かつて海外の倭寇(海賊)の頭領に嫁がされ、その頭領を自ら討ち取って金品を奪いタタラ場を作ったという過酷な過去の裏設定を持っています。タタラ場の女性たちの振る舞いに漂う独特の色気と逞しさは、社会の最底辺から這い上がってきた女性たちだけが持つ「生のたくましさ」の表現に他なりません。