買収劇の成否を握っていた最大のキーマンは、全米鉄鋼労働組合(USW)だ。ペンシルベニアやインディアナといったラストベルト(錆びついた工業地帯)の労働者層にとって、自らの雇用と年金、そして地域社会の存続は生活に直結する切実な問題にほかならない。
買収側が提示したのは、数千億円規模の追加投資計画と、協約期間中のレイオフ(一時解雇)回避という異例の約束だった。激しい応酬の末に結ばれた労働協約は、労働者の不安を完全に拭い去ったわけではないものの、老朽化した高炉の更新と次世代設備の導入に向けた実利的な妥協点として機能し始めている。