在名古屋中国総領事館を語る上で避けて通れないのが、2010年代初頭に大きな社会的論争となった「国有地(名城住宅跡地)の土地買収・移転問題」です。
当時、東区東桜の手狭な公館から移転・新築拡張を目指していた総領事館側は、名古屋市北区の名城公園隣接地に位置する国家公務員宿舎「名城住宅」の跡地(約1万5,000平方メートル)の取得を計画しました。この広大な敷地に対し、東海財務局が売却に向けた競争入札の手続きを進めようとしたことが発端です。
この動きに対し、地元住民、名古屋市会、愛知県議会、さらには国会から強い懸念と反対の声が噴出しました。反対論の主因は主に3点に集約されます。
第1に、外交上の「相互主義」の観点です。中国国内においては土地の私有が認められておらず、日本国大使館や総領事館は土地を借地契約で利用している一方、日本国内で中国政府が広大な土地を「所有権」として取得することに対する不均衡が指摘されました。
第2に、安全保障および治外法権に関する懸念です。名古屋城に近接する一等地の広大な区画が外国公館敷地(不可侵権が及ぶエリア)となることへの治安・防衛上の危機感が保守層を中心に広がりました。
第3に、同時期に新潟市でも中国総領事館による大規模な土地取得問題が発生していたため、全国的な外交政策・主権問題としてメディアで連日報じられる事態へと発展しました。
結果として、東海財務局は売却手続きを凍結・中止。その後、名城住宅跡地は学校法人愛知学院(愛知学院大学名城公園キャンパス)などに売却・再開発され、総領事館の移転計画は完全な白紙撤回となりました。