警察庁が指定する捜査特別報奨金対象事件の中でも、この事件ほど犯人特定につながる生体反応や遺留品が豊富に残されているケースは極めて稀です。愛知県警察西警察署捜査本部の公表資料および当時の現場鑑識記録によると、犯人は被害者との激しいもみ合いによって自らも負傷し、現場となった室内から階段、さらには近隣の稲生公園にかけて鮮明な血液反応を残して逃走しました。
被害者である高羽奈美子さんの血液型がO型であったのに対し、現場から採取された犯人の血液型は血液型B型であることが早期に判明しています。さらに後年のDNA型鑑定技術の飛躍的進歩により、遺留された血痕から犯人単独の完全な女性DNAプロファイルが完全に抽出・記録されています。これほど明瞭な手がかりがありながら、2026年現在も逮捕に至っていない背景には、現代の警察捜査システムが抱える構造的な壁が存在します。
最大の理由は、犯人が「過去に刑事事件で逮捕・採取された前歴データベースに登録されていない一般人」である可能性が極めて高い点にあります。日本の現行法制度上、指紋やDNAが警察データベースに登録されるのは一定の犯罪容疑で逮捕・指紋採取を受けた人物に限られます。犯人が前歴を持たない主婦や会社員などの一般生活者であり、犯行後に重大な再犯を起こすことなく社会の片隅に潜伏し続けている場合、データベースの照合だけでは網にかかりません。
さらに、現場に残されていた足痕は韓国の慶南化学製「美香」などの婦人用カジュアルシューズ(サイズ24.0cm)であることが特定されています。当時、日本国内の量販店やディスカウントショップでも安価で広く流通していた製品であったため、購入経路の追跡が困難を極めました。物的証拠の多さが皮肉にも「全国規模の潜在的該当者」という分厚い壁を生み出し、犯人の輪郭をぼやけさせてしまった経緯があります。