日本の伝統的な和食文化では、汁物やご飯を過度に混ぜ合わせる行為が「品がない」と敬遠されがちだった。その感覚がそのまま欧風カレーライスにも持ち込まれ、「ルーとご飯は境界線からすくって食べるべきだ」という暗黙のマナー意識が形成された経緯がある。
しかし、近年のフードサイエンスの研究は、全く異なる視点を提示している。スパイスに含まれる香気成分の多くは脂溶性であり、温かいご飯の水分の蒸気とルーの脂質、そして空気が適度に混ざり合うことで初めて鼻腔へと抜ける立体的な香りが開放される。つまり、科学的なアプローチから見れば、全体または部分的に混ぜ合わせる行為は香りと味覚の分子を舌の味蕾へ均一に届ける理にかなったプロセスなのだ。