池波志乃の背景を語る上で決して外せないのが、落語界の最高峰と称される家系だ。祖父は昭和の落語界に超人的な足跡を残した落語家、5代目古今亭志ん生。そして父は、味わい深い語り口と風流な人柄で落語ファンを魅了し続けた名匠、10代目金原亭馬生である。叔父に3代目古今亭志ん朝を持つという環境は、まさに伝統芸能の極致と言ってよい。
幼少期から楽屋の匂いや芸人の呼吸を肌で感じて育った彼女にとって、言葉の「間」や「情緒」は自然と身についた天性のものであった。噺家たちの粋と野暮、人情の機微を間近で見つめてきた経験が、後に女優としての圧倒的なリアリティと匂い立つような艶演に昇華していったことは疑いようもない。