取り壊し直前の九龍城砦に潜入し、その圧倒的な建築美と人々の姿を世界に知らしめたのが、写真家たちのレンズだった。日本の写真家・宮本隆司は、解体工事が進む城砦の内部に入り込み、建築の骨格や遺棄された生活空間を静謐なモノクロ写真で記録。その廃墟美を捉えた作品群は、建築写真の枠を超えた歴史的ドキュメントとして今も高い評価を受けている。
一方、カナダの写真家グレッグ・ジラードは、イアン・ランボットとともに約5年間にわたり住民の生活に密着した。彼が捉えたカラー写真は、薄暗い部屋で宿題をする少女、ネオンの下で肉を捌く肉屋の店主、狭小な空間で寄り添う家族など、魔窟と呼ばれた場所にあった「温かな生活の手触り」を生々しく伝えている。
彼らの写真集『City of Darkness』をはじめとする記録は、九龍城砦が単なる犯罪の温床ではなく、極限状況における人間のたくましさと都市生態系の特異な到達点であったことを雄弁に証明している。