日本の精神医療において、精神保健指定医は極めて特別な存在である。精神保健福祉法に基づき、本人の同意が得られない場合でも人権を制限して強制入院(措置入院や医療保護入院)させたり、身体拘束を行ったりする法的権限が与えられている。まさに精神障害者の人権と命を左右する公的な立場なのだ。
しかし、その重大な責務とは裏腹に、資格申請時のチェック体制の甘さが長年指摘されてきた。権限の大きさに鑑みれば、資格の不正取得は法秩序を著しく害する重大な社会問題である。制度を運用する側の倫理観が欠如していれば、人権保護のための法律が形骸化しかねない。今回の事態は、精神医療の根幹に関わる制度の脆弱性を浮き彫りにした。