事件には今なお解明されていない奇妙な事実が残されています。それは、殺害された金正男氏がリュックの中にVXの特効薬である「アトロピン」のアンプルを12本も所持していたことです。
アトロピンは神経剤中毒時の解毒剤として知られていますが、正男氏自身が自らの身に迫る化学兵器テロの危険を察知し、自衛のために携行していた可能性があります。しかし、奇襲のような塗布攻撃を受けた現場では、自ら注射器を取り出して使用する猶予は一切残されていませんでした。
また、正男氏の急死によって一気に命の危険に晒されたのが、長男のキム・ハンソル氏をはじめとする遺族です。事件直後、反北朝鮮の支援組織「自由朝鮮(旧・千里馬民間防衛)」の支援を受けてマカオを脱出。ハンソル氏は英語で無事を報告する動画を一度公開したものの、アメリカの治安機関などの保護下に入ったと報じられて以降、現在に至るまでその潜伏先や動向は徹底した機密のベールに包まれています。