1990年代半ば、日本の芸能界は空前のJ-POPブームに沸いていた。その中心にいたのが、ギタリストとして稀有な才能を発揮していた布袋寅泰と、彼の妻でありロックシンガーとして絶大な支持を得ていた山下久美子だ。ふたりは公私ともに認め合う理想のアーティスト夫婦として知られていた。
そこに登場したのが、今井美樹である。元々山下久美子のファンであり、彼女を「憧れの姉」のように慕っていた今井は、自然な流れで夫婦のプライベートな交流の場にも加わるようになった。しかし、音楽的コラボレーションが深まるにつれ、布袋と今井の距離は急速に縮まっていく。メディアはこの変化を見逃さず、「友情を裏切った略奪愛」という刺激的な見出しで芸能ニュースを埋め尽くした。
世間のバッシングは凄まじかった。ワイドショーのリポーターたちは今井の自宅前に押し寄せ、連日連夜の張り込みを続けた。メディアが作り上げた「被害者=山下久美子」「加害者=今井美樹」という単純化された構図は、お茶の間に強烈な印象を植え付けることとなった。