ここが最大の情報ギャップである。アニメ版はクララとの別れで終わるが、原作小説『ハイジ』(1880年刊行)には明確な「その後」が描かれている。ヨハンナ・シュピリは本編の続編として『ハイジはさらに学ぶ』(1881年)を執筆しており、日本語版では「アルプスの少女ハイジ その後 小説」として岩波書店や福音館書店から刊行されている。
原作の結末を要約すると以下の通りだ。
第一に、ハイジはフランクフルトで教育を受けた後、再びアルムに戻る。しかし単なる元の生活への回帰ではない。読み書きや教養を身につけたハイジは、アルムの共同体に対して新たな役割を担うようになる。具体的には、ペーターの祖母に聖書を読み聞かせ、冬の間は村の学校に通う子どもたちを支援する。
第二に、ペーターのその後である。原作ではペーターは羊飼いを続けるが、ハイジの影響で文字を学び、後に村の教師になる道を選ぶ。アニメ版では描かれなかったこの成長は、教育の重要性というシュピリの思想的メッセージを色濃く反映している。
第三に、クララの最後だ。クララは歩けるようになった後、フランクフルトで社交界デビューを果たす。しかし原作では、クララがアルムでの体験を忘れず、貧しい人々への慈善活動に尽力する姿が描かれる。いわゆる「お嬢様の社会貢献」への転換であり、当時のヨーロッパ社会における貴族階級の役割を反映したものだ。
そして最も重要なのが、おじいさんの最後である。原作ではおじいさんは晩年、ハイジに看取られながら安らかに息を引き取る。アニメ版では明確に描かれなかったが、原作ではこの死の場面がハイジの精神的成長のクライマックスとして位置づけられている。