では、あの奇怪なフレーズの数々は本来どのような意味を持っていたのか。タミル語の原詞と日本のネットユーザーが聴き取った空耳を比較すると、あまりの落差に眩暈すら覚える。
冒頭のサビで炸裂する「インドの牛乳屋さん」というフレーズ。原詞の「Enna Oru Maatram」は「なんという変化だろう」「信じられない変わりようだ」という主人公の驚きと恋情を綴ったフレーズだ。続く「あんこ食うなよ」は「Kalluri Vaanil(大学の空に)」という爽快な情景描写に過ぎない。「パン、茶、宿直」と聞こえる部分は「Paartha Nilavo(見上げた月だろうか)」と、ヒロインの美しさを夜空の月に例える詩的なロマンティシズムに満ちている。
切ない恋心を歌ったリリカルな表現が、極東の島国では「牛乳を配り、あんこを奪い合う謎の男たちの狂騒劇」へと完全に変換されたわけだ。この壮大すぎる音のすれ違いこそ、ネットカルチャーが起こした最大の喜劇といえる。