本作の作詞を手掛けたのは、数々の名作を世に遺した作詞家の仁井谷俊也、そして作曲は演歌界屈指のメロディーメーカーである弦哲也です。仁井谷俊也が生前に明かしていた「歌謡曲の詞は、曲を外して活字だけで読んでも一つの完成された詩として共感を呼ぶものでなければならない」という美学が、この『安芸の宮島』には凝縮されています。
物語は「ひとりで旅するおんなの背中」という印象的なフレーズから幕を開けます。愛する人との別れによって傷ついた主人公が、傷心を抱えて降り立った先が広島の安芸の宮島です。歌詞中には、潮の満ち引きによって姿を変える大鳥居、夕陽に染まる瀬戸内海、大願寺や千畳閣を想起させる歴史的景観が鮮やかに織り込まれています。
心理学的な観点から歌詞を分析すると、主人公は宮島の神聖な空気に触れることで、自らの未練や執着を徐々に浄化(カタルシス)していくプロセスを辿っています。ただ悲嘆に暮れるだけでなく、瀬戸内の穏やかな波と厳島神社の荘厳さに包まれながら、前を向いて歩き出そうとする内面的な自立のグラデーションが描かれているからこそ、聴く者の胸を強く打つのです。
また、カラオケ愛好家の間でも定番曲として親しまれ続けています。美しく響かせるための歌唱ポイントは、Aメロ・Bメロにおける語りかけるようなウィスパーボイスと、サビでの一気に視界が開けるような開放的なファルセット(裏声)の対比にあります。息継ぎ(ブレス)の位置を正確に保ちながら、母音を丁寧に響かせることで、宮島の情景が聴き手の眼前へと立体的に立ち現れます。