グリコ・森永事件における最大の謎は、犯行グループが複数回にわたる現金奪取の機会を持ちながら、一度も身代金を手にしていない点にあります。これに対し、黒川博行氏が『カウントダウン』を通じて提示し、現在も有力視されているのが「株価操作(インサイダー取引・空売り)による巨額利益の獲得」という構図です。
脅迫状がメディアに公開された直後、標的となった企業の株価は急落します。あらかじめ信用取引等で対象銘柄の「空売り」を仕掛けておけば、毒入り菓子の報道で株価が暴落した瞬間に買い戻すだけで、警察と現金の受け渡しリスクを一切冒すことなく、数億円規模の利益を合法的な市場取引を装って手にすることが可能です。
この株価操作説から導き出される犯人像は、単なる暴力団関係者や怨恨を持つ元従業員ではなく、「株式市場の仕組みに精通した知能犯」と「実行部隊としての裏社会のプロ」が手を組んだ複合的な犯罪組織です。現金の受け渡し現場は警察の目を引きつけるための陽動(フェイク)であり、本丸は株式市場にあったという仮説は、作家・黒川博行氏の卓越した経済犯罪への知見を如実に物語っています。