警察が本格的な追跡を開始したのは約1年前のことだった。全国で相次いだ不審な資金移動のパターンを警視庁捜査二課のサイバー犯罪専門班が追跡したところ、単一の通信プロトコルと特定の暗号化プロキシサーバーを経由している事実が浮上した。捜査線上に浮かび上がったのが、かつて海外の大手IT企業でセキュリティエンジニアとして勤務していた経歴を持つ男だった。
容疑者は警察の追跡を極力逃れるため、数週間ごとに拠点を変え、ダミー会社名義で契約されたシェアオフィスやウィークリーマンションを転々としていたという。近隣住民の証言によれば、「昼間は全く姿を見せず、深夜に配達員が頻繁に食べ物を届けている程度で、怪しい気配は全く感じられなかった」という。まさに都市の死角に潜み、画面の向こう側で巨額の不正操作を続けていたことになる。