外観を見上げると、その圧倒的な造形美に息をのむ。彦根城の天守は規模こそ姫路城や松本城に及ばないものの、屋根の装飾(破風)のバリエーションは全国屈指だ。切妻破風、入母屋破風、そして優美な曲線を描く唐破風。多種多様な屋根飾りが絶妙な配置で組み合わされ、見る角度によって全く異なる表情を見せる。
これは単なる意匠ではない。徳川家康の重臣・井伊直政の遺志を継いだ井伊家が、西国の豊臣系大名に対する圧倒的な威圧感と、徳川治世の権威をアピールするために緻密に計算した建築デザインなのだ。軍事的な実用性と、鑑賞用としての美しさ。殺伐とした戦国時代の残り香と、泰平の世の到来を告げる美意識が、この三層三階の木造空間の中で見ごとに同居している。