地獄の頂点に君臨する官僚・鬼灯の原点は、意外にも「古代日本の名もなき人間の孤児」でした。彼が生前過ごした時代は、まだ日本に確固たる地獄の司法制度すら整っていなかった神話の黎明期にまで遡ります。
当時、身寄りのない子どもであった彼は「丁(てい)」と呼ばれていました。村に激しい旱魃(かんばつ)が襲った際、身勝手な村人たちによって「雨乞いの生贄」として選ばれ、神への供物として命を奪われるという凄惨な最期を遂げます。この理不尽極まりない死亡理由こそが、彼の根底にある冷徹さと揺るぎないリアリズムの原風景となっています。
死後、怨霊となった丁の魂は地獄へと落ちますが、そこで運命の転機が訪れます。彼の激しい怒りと恨みの思念に惹きつけられるように、地獄に漂っていた「鬼火(怨念の炎)」が集結。丁の魂魄と鬼火が完全に融合したことで、人でも神でもない新たな「鬼」として覚醒を果たしました。
その後、地獄の裁判制度を立ち上げようとしていた若き日の閻魔大王と出会います。閻魔大王は、丁の並外れた知性と胆力、そして底知れぬ才覚を見抜き、「鬼火」の『鬼』に生前の名である『丁』を組み合わせ、「鬼灯」という新たな名を授けました。こうして、生贄の少年は地獄の秩序を司る最高峰の補佐官へと歩みを進めることになったのです。